昨秋の市長選の運動期間初日の話です。
告示日の11月12日は冷たい雨が降る寒い日でした。私は立候補届出後、新発田市内の各所にて街頭演説をやっていました。
勿論、従来型の組織選挙を一切行わない私は「動員」がないため街頭演説をしても周囲に人集りが出来るようなことはまずありません。そんな光景を見て「周りに聞いている人がいないで平気なのですか?」等の質問も時折耳にします。
それでも、駐車場への移動時に「耳を傾けてくれている人が必ずいる!」と自分に言い聞かせて演説をしているのです。その証拠に、私の「街頭演説を聴いた」とメッセージを送ってくれる人も沢山いるのでそれが励みになっているのです。
告示日はほぼ1日中、25本の街頭演説を行い、最後の演説場所はイオンショッピングセンター前の道路沿いでした。勿論、真っ暗で駐車場の明かりにほのかに照らされるような感じで、本当に誰か聞いていてくれるのか?と自分の方針に対して、疑心暗鬼にもなっていました。
法律で街頭演説は20時までと決まっています。
ちょうど1分前に演説を終了する頃には、冷たい雨が激しいミゾレに変わっていました。バチバチと傘に当たる大粒の氷玉(このときは名物の黄色いカッパは着ていませんでした)で、スピーカーから声も掻き消される程の荒天だったのです。
お立ち台(洗車用のアルミ脚立)を片付けようとしたその時、小学3~4年生くらいの男の子が傘をさして歩いてきました。
そして私の前に止まると、
「はいこれ!」
と缶コーヒーを差し出したのです。
私は「どうもありがとう」とお礼を言って「お父さんお母さんにお使い頼まれたの?」と聞くとコクリと肯いていました。「誰も聞いていないかも知れない」と心の隙間に僅かに入り込んだ迷いは完全に吹っ切れました。
あの真っ暗な日曜日の夜8時の駐車場、天気は大荒れ…なのに見てくれていた人がいた!
私はこのときを境に、「街頭演説は見えなくても必ず聞いている人がいる」と信念を持ってお立ち台に立つようにしています。
あの男の子にお使いを頼んだのが誰かは解りません。
あえて名前は聞きませんでした。
もしかすると、しがらみで表に出ることが出来ないのかも知れません。
その時頂いた缶コーヒーの温かさは一生忘れられません。
真っ赤に晴れ上がり、かじかんで感覚の麻痺した手で、缶コーヒーの温もりを何度も何度も貰い受けました。顔に押しつけてはほっぺたも温めました。
この温もりは応援してくれている「見えない支持者」そのものの温もりなのです。
今でもその缶コーヒーは私の机の前に飾ってあります。有権者の見えない声を受け止めると言う私の初心を忘れないために…